マスク生活で陥る口呼吸の「わな」 血流悪化、自律神経の乱れなど多くのデメリット【#コロナとどう暮らす】

マスク生活で陥る口呼吸の「わな」 血流悪化、自律神経の乱れなど多くのデメリット【#コロナとどう暮らす】〈AERA〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース

関東地方の金融機関に勤める女性(35)は、ここ4カ月間に息を吸いすぎて苦しくなる「過呼吸」の発作を3回繰り返した。  

 

過呼吸は激しい呼吸によって二酸化炭素を必要以上に吐き出してしまい、血中の炭酸ガス濃度が低下することで起きる。女性は以前からストレスや疲れを感じると過呼吸気味になることがあり、主治医にふだんからゆっくり鼻で呼吸するようにアドバイスをされていた。そのおかげかこのところ発作は治まっていたが、それが立て続けに起きてしまった。女性はこう振り返る。 「新型コロナが騒がれ始めた2月初めから、自宅以外ではずっとマスクをつけていました。息苦しさもあり、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなり、発作につながったのだと思います」  

 

みらいクリニック院長で内科医の今井一彰医師は、マスクの着用によって口呼吸になったことが、過呼吸の背景にある可能性を指摘する。 「マスクをしていると口と鼻が覆われて苦しいので、たくさん空気を取り込める口呼吸になりがちです。しかし、人間本来の生理的な呼吸は鼻呼吸なんです」   

 

口で呼吸をすると、過剰に空気を取り込んでしまいがちだ。今井医師によれば、鼻呼吸をしている限り、過呼吸になることは少ないという。 「そもそも、人間以外の哺乳類は口呼吸をしませんが、人間は言葉を覚えたことで口呼吸をするようになった。食事は口から、呼吸は鼻からが本来の体の使い方。口呼吸が習慣になることでさまざまな悪影響が生まれます」(今井医師)

 

口呼吸は、ホコリやカビ、細菌やウイルスなどの異物をそのまま吸い込みやすい。鼻には「天然のマスク」ともいわれるフィルター機能があり、鼻毛や鼻粘膜によって空気中の異物が取り除かれる。風邪やアレルギーなど、さまざまな病気を防いでくれるが、口呼吸にその機能はない。  

 

また、吸い込んだ空気の温度や湿度の調節機能が低いことも、口呼吸の弱みだ。鼻の粘膜は細く短い毛がびっしり生えた血流豊富な線毛細胞に覆われており、絶えず微量の粘液が分泌されている。鼻から吸い込んだ空気は鼻のなかを通過する間に、適切な温度と湿度に調整されて肺まで届き、肺の中をスムーズに循環できる。だが、口で吸い込むと、冷たい空気は冷たいまま、乾燥した空気は乾いたままダイレクトに肺に送られるため、肺のデリケートな細胞にダメージを与えたり、体を冷やしたりしてしまう。その結果、血流も悪くなり、コリや痛み、便秘といったさまざまな不具合を引き起こす。  

 

脳のクールダウン機能もない。脳の至適温度は37度前後だが、多くの活動を担う脳は温度が上がりやすい。鼻呼吸をすると鼻腔内で至適温度に調整された空気が近くにある脳の前頭葉を冷やし、脳全体に冷えた血流を送ってくれるが、口呼吸ではこの冷却作用が利かない。  

 

口呼吸の弊害は、メンタルにも及ぶ。呼吸は自律神経と密接な関係があり、浅く速くなりがちな口呼吸は、自律神経のバランスを乱しやすい。  「自律神経のバランスを整えるには深くゆっくりした呼吸が欠かせません。鼻呼吸をすればごく自然に実現できます。さらに心を落ち着けたいときは、1分間に5回、あるいはそれ以下のよりゆっくりとしたペースで鼻呼吸をするとよいでしょう」(同)  

 

鼻呼吸は血管にもいい影響があるという。広島大学大学院耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学教授の竹野幸夫医師はこう話す。 「鼻呼吸をすると、血管を若々しく保ち、動脈硬化の進行を抑える一酸化窒素(NO)が鼻から肺へと多く送り込まれることがわかっています」

 

一般に鼻のなか、と言われて意識するのは、顔から盛り上がった部分の内側にある「鼻腔」だが、その周りには「副鼻腔」と呼ばれる左右4対(合計八つ)の空洞が広がっている。副鼻腔の範囲は広く、目の上から額、頬の周りまで。細い孔で鼻腔とつながっている。鼻腔も副鼻腔もいずれも線毛細胞に覆われているが、この線毛細胞から、常時多くのNOが産生されているのだという。 「NOは血管の内皮細胞からも分泌されていますが、副鼻腔は広いので、作られるNOの量も多い。鼻呼吸をすることで、副鼻腔で作られた大量のNOが、空気と一緒に肺へと送り込まれるのです」(竹野医師)  

 

NOは血管の中膜にある平滑筋という筋肉組織に働きかけて血管をやわらかく広げ、血流をスムーズにする働きがある。殺菌作用もあり、気道を清浄に保ち、病原菌などから体を守ってくれる。鼻腔を覆う線毛を動かして老廃物を排出する「掃除屋」の役割も果たす。さらに肺の血流を改善し、酸素と二酸化炭素のガス交換を促すなど、多くの健康効果が期待できる。

 

「鼻歌を歌うと副鼻腔からのNOの放出量が増えるというスウェーデンの研究もあります。安静時と鼻歌を歌った直後の呼気に含まれるNOを比較したところ、鼻歌直後の方が約15倍もNOが多く気道に送り込まれることがわかりました。鼻歌の響きで副鼻腔の骨が共鳴を起こし、広い副鼻腔の奥にたまっていたNOが出てきやすくなると考えられています」(同)  

 

口呼吸の弊害、鼻呼吸のメリットは多岐に及ぶ。しかし新型コロナの第2波、第3波が予想され、マスクを手放せない状況では、冒頭の女性のエピソードにもあったように、マスクで口呼吸になりがちだ。今井医師は、口呼吸をクセにしないためにも、漫然とマスクをし続けないことが重要だという。