マスクが増えて口呼吸になっていませんか? 鼻呼吸のススメ

人間は鼻呼吸の動物です!

私たちは、2、3日食べなくても死んでしまうことはありません。でも2、3日息をしなくても死なない人はいません、、。2、3日どころか10分でも息が止まることは生死に関わります。そのくらい呼吸は大事です。ただ、どこで息をするのが正しいのか、なぜか、知っていますか?鼻が詰まっていて鼻が使えないなら口で息をすればいいじゃないか。というのは間違っています!特に成長の著しいお子様には鼻呼吸が重要です。Trabalonらの研究によれば生まれたばかりのネズミの鼻を人工的に封鎖し口呼吸しかできなくするとわずか3、4日で1/3の子ネズミが死んでしまったという結果が出ています。鼻の障害から口呼吸になることによって、口が食事のための機能だけでなく呼吸をする機能まですることになり、成長への影響や栄養摂取への影響、ストレスにより低血糖、脱水、免疫機能低下、ストレスで内分泌系への影響が出るためとされています。ヒトの赤ちゃんが口呼吸するだけで急に生死に関わることはないですが、長期的に見て体への影響はとても大きいと考えられます。

口呼吸で歯並び、そして顔立ちが変わってしまう。。。

実は私たちの顔、頭、歯並びは鼻で呼吸することによって正しい成長が起きるようにできています(Moss functional matrix theory )。口呼吸の子供では口が常に開いていて、唇から喉への空気の通り道を作るため舌が下顎の内側に落ちてしまっています。このような状態で成長していくと、上顎の歯並びのアーチが狭くなったり、下顎の骨の成長が大きく出てしまったりと歯並びにも顔立ちにも影響がでます。

鼻ってすごい!!鼻で息をする意味

鼻は肺まで繋がった呼吸器の入り口です。そのため鼻の一番の役割は吸い込んだ酸素を肺で効率よく血液に取り込めるようにすることです。

・天然のマスク、空気清浄機

空気中には、ほこりや花粉、細菌やウイルスなど様々なものが浮遊しています。鼻から息をすることでこういった体に取り入れたくないものは自動的に排除されます。まずは入口の鼻毛でキャッチ、そこで取り逃された粒子はその奥に広がっている粘液層でキャッチされます。粘液層はドロドロした粘液と線毛によって表面についた粒子を胃に運び胃酸で無毒化します。この結果肺まで到達するのは1マイクロメートル(㎛)以下のごくごく小さな粒子のみになります。花粉は30㎛、飛沫は3.0-5.0㎛、PM2.5は2.5㎛、細菌は1㎛とされています。一般的なマスクは10-100㎛の通気性なので、鼻には10-100倍のフィルター性能があり、マスクのように隙間から通常の空気が体内に入り込むこともありません。(ただし、インフルエンザやコロナウイルスの場合、吐く息に含まれる感染力のあるエアロゾルは1㎛なので鼻を通過してしまう可能性があります。)

・天然のエアコン、加湿器

肺の中で酸素を血液に受け渡しますが、一番効率がいいのは湿度100%、温度は38度になっていることがわかっています。鼻はたった5cm、空気の通る時間は0.5秒に満たない短時間ですが、どんな環境下においてもほぼ37度、湿度80%近くにまで空気の状態を変えることができます。そのために私達は地球の様々な場所で暮らすことができるわけです。

・肺を十分に機能させる抵抗装置

鼻は気道抵抗の50%を占めているとされています。抵抗によって空気の流れがゆっくりになり、息を吸うときには鼻を通る際に空気が十分に加温、加湿され、また、このために肺胞が十分に広がるための時間が作られます。このため血液中に酸素がたくさん取り込まれます。吐く時にも、鼻の抵抗により空気の流れがゆっくりとなるため、肺胞が膨らんでいる時間が長くなり、酸素が取り込まれる時間も長くなるというわけです。そのため鼻呼吸では、口呼吸に比べ体に取り込まれる酸素の量が多くなります。

・酸素をより取り込ませる一酸化窒素 

鼻の粘膜は一酸化窒素を産生することがわかっています。これによって肺胞周りの血管が太くなり、さらに酸素の取り込みが増えます。

特にお子様では鼻呼吸が大切です!

鼻は人間が呼吸するものとして進化させてきたものなのに対し、口には呼吸のための機能が全くありません。 鼻を使わないのはもったいないですよね。もったいないだけではなく、口呼吸は体に色々な害があるんです。。。


Jefferson Yらによると

・歯並び、顔立ちの成長への影響

・睡眠障害、体全体への成長への影響

・成績への影響、情緒不安定

・睡眠時の呼吸障害

が指摘されています。
なぜ、鼻呼吸ができないと成績や情緒にまで影響するかというと、口呼吸だと睡眠中ずっと息苦しく、よく眠れないからです。ヒトの体は本来、横になった姿勢では鼻呼吸をした方が呼吸しやすいようにできています。これが、鼻が詰まっていて口呼吸になると十分に空気が肺に入らなくなってしまいます。風邪で鼻が詰まっていると、息苦しくて夜中に何度も目が覚めてしまった経験はないでしょうか。脳の発達が著しい子供にとって睡眠はとても大切です。この時期の睡眠障害は前頭葉機能の低下による認知機能の低下、集中力の低下、情緒不安定が報告されています。

見逃さないで!こどもの鼻づまり症状

レントゲン上でも、話していても、ひどい鼻づまりのある子に『鼻づまり苦しくない?』と聞いてもほとんどの子が、『えっ???全然。』と答えます。本人にとってはそれが日常になっており、そもそも鼻呼吸と口呼吸の比較ができないと考えられます。自覚がないためご両親も気が付かない場合が多々あります。

・寝ているとき口が開いている、いびきをかいている、歯ぎしりをしている。

・小学生になってもおねしょする。

・いつも口がぽかんとあいている。

・昼間もぼーとしている。

・集中力がない、落ち着きがなくイライラしている

・運動をすると息苦しい

・鼻水、鼻血がよく出る

・食べるときクチャクチャ音を立てて、口が開いている

以上のような症状があれば鼻づまりがある可能性があるので耳鼻科で治療を受けていただきたいと思います。

まとめ:矯正治療と鼻の関係

呼吸と歯並びや顎の成長についての関係はご理解いただけたでしょうか。矯正歯科で鼻の治療をすることはありませんが、歯並びや顎の成長バランスを整える治療を成功させるには呼吸の問題は切り離せません!舌の位置や口を閉じておく唇の機能などの機能トレーニングと一緒に、しっかり鼻が使える状態なのかチェックが必要です。ずっと鼻詰まりがあるお子様の場合、それが普通になってしまって自分が口呼吸している意識がないことも多くあります。お子様の様子をよく観察してみてください。また、大人で矯正治療を受けられる場合も、鼻呼吸ができない場合は治療後に歯並びが狭くなったり、ガタガタになったりなど後戻りの原因となる場合があるため、大人も鼻呼吸を意識していただきたいと思います。

参考文献:

東京矯歯誌 29:33-42,2019 鼻づまりはどこまで治せるのかー鼻閉治療の現状と今後の展望ー 黄川田 徹

筑摩書房 親子で読む鼻と発育の意外な関係 鼻のせいかもしれません 著:黄川田徹