「体温超え」が18歳未満の子に超危険なワケ

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ひとつは、発汗して汗を蒸発させて熱を逃がす方法だ。体の外に汗を出してくれる汗腺は個人差があるもののおおむね300万から400万個で、数自体は子どもと大人で変わらない。。

体の小さな子どもの汗腺は「密」に存在するが、体そのものが成長しきっていないため実際に有効に働いている数は非常に少ない。このため、水分補給が、大人のように体温調節に対して有効ではない。

汗腺が有効か、有効でないかは、部位によって「差」がある。たとえば、小さな子どもは頭によく汗をかく。その場合、頭の汗腺が機能しているといえる。しかし、体幹などほかの部位の汗腺は未熟だ。

汗腺機能が完成するのは、18歳前後

さらに驚かされるのは、この汗腺機能が成人と同等までに完成するのが思春期を過ぎた18歳前後だということ。高校3年生以降で、ようやく大人と同じくらい発汗して熱を逃がせるようになるわけだ。しかも、汗腺の発達は個人差が大きい。声変わりや、体の発育時期が子どもによって違うのと同じ道理である。

もうひとつの熱を逃がす方法は、皮膚血管の拡張。血管が広がることで外に熱を放出する。大人も子どもも、暑いときに動くと顔が赤くなるし、手足も温かくなる。この皮膚血管拡張の機能は、小学生でほぼ大人と同程度になる。

「とにかく皆さんに注目してほしいのは、発汗する機能が子どもは非常に弱いということ。18歳以前は未発達と考えなくてはいけないのに、大人は自分の感覚で判断してしまう。水分補給によって大人と同じような予防効果が得られると勘違いしないでほしい。飲水は必要なことではあるが、過信すると大変なことになる」と永島さんは警鐘を鳴らす。

そう考えると、これまで子どもたちに起きた熱中症の重症化も無理のないことだとわかる。

小学1年生が亡くなった小学校は「児童には水筒を持たせ、活動中も水を飲ませていた」と説明しているが、実は効果は薄かったわけだ。もっと大きい中高生も部活動の際に熱中症で倒れたり、過去には命を奪われる事件も起きている。

とはいえ、水分補給は重要ではある。脱水を防ぐからだ。人間は体の約6割が水分で構成される。血液以外に組織の体液も循環している。

永島さんによると、この循環は重要臓器が優先だ。特に暑熱下で活動した場合、脳や心臓、筋肉への血流が最優先となり、最後になるのが皮膚の血流である。脱水状態になると皮膚の血流や発汗機能が犠牲になるので、水分の摂取は必要ではある。

「わかっていただきたいのは、子どもでも水やスポーツドリンクを飲めば脱水の進行をかなり防ぐことができるが、大人ほどには体温調節の助けにはならない、ということです」

永島さんによると、熱を逃がす機能のほかに解剖学的な問題もある。子どもは体が小さいので、外気温からの影響を受けやすい。体温(36~37度)より外気温が大きくなると、体の面積の少ない子どもはもろに影響を受けるという。

この「体温超え」は、大人にさえ危険が及ぶ。

実は、皮膚表面の温度より外気温が高くなると、皮膚血管拡張が起きても熱を逃がすことができなくなる。逆に熱を体に取り込むことになり、大人も子どもも危険にさらされる。だから、気温が36~37度以上を記録すると「体温より高い」ことが注目されるわけだ。ただし、体温越えでない環境でも、湿度が高くなると大人も汗をかけなくなるので注意しなくてはいけない。

特に、労作が加わるときは十分注意しなくてはいけません」と永島さん。「労作」とは、運動や何かの作業で体を動かすこと。

豊田市の小学1年生が亡くなった日は、気温32度。猛暑日に満たなかったこともあり校外学習に出掛けたというが、子どもは徒歩による移動や外遊びという「労作」が加わっている。気温が高いときに労作が加わると、どうしても体内には熱がたまる。

気温の計測地点より、子どもはずっと地面に近い

毎日発表される「その日の最高気温、最低気温」は、「地上150センチ」の「日陰」で計測されたもの。よって、直射日光が当たるところで体感する気温とは大きな差がある。

子どもには、輻射熱が及ぼす影響が違う。輻射熱は赤外線で、地面からの照り返し。小さな子どもは地面に近いため、より影響を受ける。とにかく、あらゆる面で、中高生を含めた子どもが、大人とは違うのです」と永島さんは強調する。

特にアスファルト道は温度が高くなる。サッカーなど屋外のスポーツ施設によくある人工芝も高熱になるため注意が必要だ。

全国的に夏休みに突入するこれから。親や子どもにかかわる大人が子どもに異常を発見したとき、どうすればいいのか。

とにかく体を冷やすこと。エアコンの効いた部屋に運んで、そこで冷やす。大人の場合、クーリングのいちばんいい手段は氷水につけることだが、子どもはよほどひどい場合にしてほしい。また、よく屋外で熱中症で倒れた子どもの脇や足の付け根に保冷剤やビニール袋に入れた氷を挟むと聞きますが、効果はあまりありません。私たちも実験をやったけれど、それでは冷やすことができなかった」

そう教えてくれた永島さんは、子どもの熱中症予防のために活動する環境のガイドラインの必要性も感じている。

子どもの場合、屋外での運動や活動の安全域は、30~32度程度がひとつの目安だ。ただし、その温度以下でも、運動すれば熱中症が起きる可能性はある。

「子どもの自己申告」を待ってはいけない

加えて、実は危険なのは海やプールの中。水の中では、汗をかいても蒸発しないため、皮膚から熱を逃がしにくい。のどの渇きも感じにくいため、水分補給を忘れがちだ。脱水症状に陥るのを防ぐためにも、陸にいるとき以上に水を飲むことを意識すべきだろう。

最後にもうひとつ。子どもに対し「具合が悪かったら、先生(大人)に言いなさい」という働きかけには無理があるという。

「子どもは、自分の心臓がやたらドキドキして苦しかったりするのが、熱中症によるものなのか、運動によるものなのかは判断できない。彼らが容易に自己申告してくれると期待してはいけません。大人はもっと勉強してほしい」