ポストハーベスト

●ポストハーベストとは
 
商品価値保持のため劇薬
ポストハーベスト(postharvest)は、英語で「~の後」を意味する「ポスト(post)」と、「収穫」を意味する「ハーベスト(harvest)」が結びついた語句です。収穫後の農産物の品質保持のために行われる様々な処理のことで、正式にはポストハーベスト・アプリケーション(Postharvest Application :収穫後の農薬使用)といい、外国では広く認められています。日本では、主に輸入農産物について「食品添加物」として許容しています。

栽培中にも農薬をかけますが、収穫後にも農薬を使用するのは、長期保存や長距離輸送の際に、病害虫やかび、腐敗などによって商品価値が落ちるのを防ぐためです。毒性の強い劇薬も多く、中にはベトナム戦争で使用されていた枯葉剤と同じ成分のものもあります。

 

検疫でも薫蒸くんじょう処理
輸入農産物が日本に到着し検疫で害虫など見つかると、多くの場合、青酸カリや殺傷力の強い臭化メチルなどのガスを室内で農産物にかける「薫蒸」という消毒が行われます。

 

ポストハーベストの高い危険性
(1)ポストハーベストは、栽培中に使うものより数倍~数百倍高い濃度で農作物に直接ふりかけたり、農作物を薬液に漬けたりして使います。このため、もともとの付着濃度が高いうえ、太陽光線で分解されることもなく、栽培中の農薬よりも残留濃度がずっと高くなります。水で洗ったり皮をむいても完全には除去できません

(2)ポストハーベスト農薬の防かび剤「ジフェニール(DP)」「イマザリル」「OPP」「TBZ」は表示の義務があるので分かりますが、防かび剤以外のポストハーベスト農薬(殺虫剤など)については、使われていても表示されません。これらのポストハーベスト農薬のうち国内で使用が禁止されているものが検査で見つかったり、残留基準違反のものが見つかったりする場合があり、非常に危険です。

海外から輸入される農産物のポストハーベストの実態を、いくつかの実例で見てみましょう。

 

●かんきつ類(オレンジ、レモン、グレープフルーツ)

 

オレンジ
見た目は美しいオレンジだが、OPPやイマザリルなど恐ろしい農薬に汚染されている
鮮やかなオレンジ色や黄色でつやつや光るオレンジやレモン、グレープフルーツ。輸入品には米国産が多いですが、米国でのオレンジの収穫後の処理工程を知っておきましょう。

処理場に入ったオレンジはまずブラシをかけられます。ここで、外皮の表面にある茶色のかさぶたなどが削り取られてきれいな色になります。しかし、外皮の表面は傷だらけになり、細胞膜が破れるので、このままではすぐにかびが生えてしまいます。そこで、まず殺菌剤をスプレーします。
次に、白かびを防ぐため、発がん性のある防かび剤「OPP(オルトフェニルフェノール)」が入ったワックスをかけ、さらに緑かびを防ぐために催奇形性のある防かび剤「TBZ(チアベンダゾール)」や発がん性のある防かび剤「イマザリル」をスプレーします。

こうしてオレンジの表面はピカピカ光ってきれいに見えますが、農薬入りワックスが光っているだけです。オレンジの皮にかびが生えないのは、かびが生えないほど強い毒物が塗られているからなのです。

 

米国の圧力で許可
日本では、収穫後の農産物への農薬使用はほとんどないので、1974年に米国から輸入されたかんきつ類からOPPとTBZが検出されると、当時の厚生省は違法添加物として摘発しました。しかし、政府は後に米国の要求を受け入れ、77年にOPPを、78年にTBZを、それぞれ許可したのです。

 


見た目はきれいだが、枯葉剤の成分など危険薬品で処理されている輸入レモン。
レモン
次にレモンの処理工程を見てみましょう。処理場に運び込まれたレモンはまず「塩素剤」のプールに漬けられます。引き上げられると、「アルカリ剤」で洗われ、さらに殺菌作用のある「2.4-D」をスプレーしてから、冷蔵倉庫に入れられます。2.4-Dはベトナム戦争で用いられた枯葉剤の主成分で、発がん性があります。

さらに、出荷時には、発がん性防かび剤の「OPP」、催奇形性のある防かび剤「TBZ」をかけます。

 

【参考】
埼玉県の実験(00年~01年)では、輸入レモンやオレンジをナイロンたわしで30秒間こすって流水で洗い流しても、防かび剤が25~90%残りました。農薬別の除去率はイマザリルとOPPが約30%、TBZは約65%にとどまりました。また、レモン片を飲料に入れる場合の農薬溶出量を知るため、熱湯に輪切りレモンを入れて1分間置いたところ、イマザリルとOPPは約40%が、TBZは約60%が溶出しました。
 
●バナナ

危険農薬、相次ぎ検出
日本への輸入バナナから1990年代前半、ベノミル(殺菌剤:発がん性)、チオファネートメチル(殺菌剤:発がん性)、クロルピリホス、TBZ(防かび剤:催奇形性)、イマザリル(防かび剤:発がん性)、ベノミル(殺菌剤:発がん性)、チオファネートメチル(殺菌剤:発がん性)などが相次いで検出されました。

今も、防かび剤以外のポストハーベストについては表示されていないので、輸入農産物の残留農薬の実態は詳しく分かりません。

偽装無農薬バナナ
2005年2月、農水省は、「無農薬」と表示されている農産物の特別調査を実施した結果、農産物の大手生産・販売会社「ドール」(東京)が販売したフィリピン産バナナなど37業者の商品から不適正な表示が見つかったと発表しました。同社は約3年半にわたり、農薬を使用して栽培したフィリピン産バナナを「無農薬」として販売していました。

●小麦

日本では小麦の消費量の大半を輸入に頼っています。小麦の大輸出国である米国では、小麦に有機リン系殺虫剤のマラチオンやMEP(スミチオン)など約20種類のポストハーベスト農薬を認めています。1997年度と98年度の日本の厚生省(当時)による残留農薬検査で、輸入小麦やパンからマラチオンとクロルピリホスメチル、臭素(いずれも殺虫剤)が検出されました。

世界各地に穀物の生産・加工・流通のネットワークを持つ巨大穀物商社は、農家から購入した穀物を国際相場をみながら出荷するため、穀物を倉庫で長期貯蔵することがあります。虫から小麦を守りながら長期保存するには、ポストハーベスト農薬をふんだんに使う必要があるのです。

ポストハーベストで処理された小麦には「7年間虫がつかない」と言われています。

●その他の輸入農産物

じゃがいも
ポテトチップスやフライドポテトの原材料として、米国産などの輸入冷凍じゃがいもが広く使われています。

米国では、じゃがいもの発芽防止のための除草剤IPC(クロルプロファム:発がん性)殺菌剤TBZ(催奇形性)、植物成長調整剤テトラクロロニトロベンゼンがポストハーベストとして使われています。

その輸入にあたって、日本が定めたIPCの残留基準値は当初、0.05ppmでした。ところが、その後WTO(世界貿易機関)加盟に際し、国際基準に比べて低すぎる(したがって輸入の障壁になる)として、基準値を1000倍の50ppmに大幅緩和し、米国産冷凍じゃがいもの輸入に便宜を図りました。

外国産の米は、精米してから殺虫剤をスプレーして輸送する場合があります。

その他の農産物
ここまでに取り上げた作物以外にも大豆やとうもろこし、さくらんぼ、かぼちゃなど野菜類、ナッツなど、ほとんどの輸入農産物にポストハーベスト農薬の恐れがあります。